【実例⑧】肺気腫

[基礎データ] 病名:病名:慢性呼吸不全で誤嚥性肺炎を併発
患者:80代 男性 Bさん
入院までの経過
 Bさんは70歳の頃から肺気腫を患い、近医に通院していました。病状はなかなか良くならず、次第に喀痰(たん)が増え、加齢とともに体力も低下。そうした折、急に呼吸困難をきたし、その苦しさからか、意識も朦朧とし、当院に入院することになったわけです。
当院での治療
 当院に運ばれてきた時、慢性呼吸不全が引き起こした重度の呼吸困難というばかりでなく、誤嚥性肺炎を併発しており、危篤と呼ぶに近い状態でした。直ちに人工呼吸器(NIPPV)(→①)を装着し、呼吸管理を行うとともに、肺炎の治療を開始しました。
  血液中のガス分析を行いつつ、高濃度の酸素を投与し、呼吸管理を続けた結果、次第に意識は回復に向かい、重篤状態から脱出しました。しかし、ベッドから全く起き上がれないほど、全身の筋力低下や栄養状態は想像以上に悪化が進行していたのです。
  人工呼吸器や経管栄養摂取なら、間違いなく安定した状態を保てます。しかし、目指すべきは単なる延命ではなく、天寿を全うする自立への道。状態を見ながら、人工呼吸器の装着時間を少しずつ減らし、その減った時間を活用して、全身の筋力回復に向けたリハビリや、全身の栄養状態改善に向けた摂食訓練を根気よく続けていきました。
  入院後、初めて口からおじやを食べられた時、「あー、おいしい」と大変喜ばれたBさん。その声は、長期間にわたり治療ケアに携わってきたスタッフたちに、新たな希望を灯す光でもありました。
その後の経過報告
 経口摂取は気力、体力を回復するために不可欠ですが、摂食訓練段階ではもちろんリスクも伴います。Bさんはその後、二度ほど誤嚥性肺炎を繰り返され、回復が危ぶまれましたが、その都度、本人もスタッフも根気よく治療を行いました。危篤状態から脱出した成功体験がそれを力強く後押ししていたのです。
  そして、入院後、約6ヵ月を経た今では、自力でベッドから起きあがり、車椅子にも移乗でき、少しの介助があれば杖歩行も出来るようになりました。
現在、介護療養型病棟で呼吸管理を行いながら、自宅へ外出できる機会を調整中です。退院できる日は、もう手の届く所にまで近づいています。

①人工呼吸器(NIPPV)

NIPPVは、Non-invasive Positive Pressure Ventilationの略で、非侵襲的陽圧人工呼吸器のこと。つまり、口から気管へ挿管チューブを入れず、鼻、口にマスクをつけて、それに人工呼吸器をつけて行う人工呼吸の方法です。マスクをつけるだけなので、苦痛ははるかに少なくなります。