【実例⑬】橋出血、四肢麻痺、意識障害

ほんのわずかな反応さえ見逃さず、
その身体機能を伸ばしながら、
自分で意思伝達できる日常へ。

[基礎データ]病名:橋出血、四肢麻痺、意識障害 患者:40代 男性 Mさん

事前経過

 自宅で意識不明の状態で発見され、救急車で急性期病院へ搬送されたMさん。 原因は橋(きょう)出血。橋出血とは、意識・呼吸・循環など生命活動の基本を司る脳幹の一部にある“橋”の部分が出血する病気で、意識消失や四肢麻痺、呼吸困難などを引き起こします。
Mさんの場合も、意識障害があって呼び名に反応せず、気管切開術を施行されしかも四肢麻痺が残る状態でした。そこで、急性期病院退院後も引き続いて入院加療を希望され、当院へ転院となったのです。

当院での治療

 転院時は誤嚥性肺炎を併発されていたため、感染症の治療と身体機能維持のリハビリからゆっくり始めていきました。訓練時にわずかな瞬きや左手の微妙な把握が見られました。それが随意的な反応であるか否か判断が困難でしたが、発症から9ヶ月が経過した頃、Mさんに声掛けすると瞬きによる明らかな反応がみられ、同時に頚部の動きがみられるようになったのです。
 訓練時の声掛けに対し、うなずきでの反応をするよう繰り返し促したところ、3ヶ月後には、確実にうなずくようになりました。リハビリスタッフ以外の職員に対しても同様の反応が見られるようになり、段々とわずかな首振りの動作も加わるようになりました。さらに3ヶ月経過後には、タブレットを使用してMさんの好きな車の動画や写真などを見せると笑顔を浮かべるようになりました。声掛けに対して、左示指や母指の動きが見られたり、喀痰吸引時にナースコールを押せるよう訓練を続けたところ、可能となったのもこの頃です。

 ここまでくれば、あとは本人の考えや意思を伝える方法の発見です。検討を重ねた結果、わずかな動きに反応する意思伝達装置「伝の心」を採用することにしました。「伝の心」は重度肢体不自由の患者で、発声ができない、手指でキーボード使用が出来ないなどの場合、身体の一部や眼球のわずかな動きを利用して機器を操作し、意思伝達する装置です。少しづつ練習を重ねた結果、文字盤を見ながら、頚部を動かして文字入力をするという操作ができるようになり、「めまいがする」などの短文を作成することが可能となりました。わずかな内容でも意思疎通ができたときは、ご両親の喜びは計り知れないものでした。
 発症から約2年経過していましたが、あきらめずに残存機能を検討しながら、リハビリを継続した結果です。車いすに乗り、屋外に出て、ご両親と一緒に大好きな車の前で写真撮影をされたこともありました。しばらくはこのような小康状態がみられましたが、感染症による発熱を繰り返すようになり、次第に全身状態が悪化し、やがて永眠されました。

考察

 継続してリハビリを行う中でわずかな反応も見逃さず、身体機能の回復に結び付けることの大切さを学びました。最終的には永眠されましたが、ご両親との意思疎通がはかれる貴重な時間が作れたことは本当に良かったと思います。

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