【実例⑤】脳血管障害〈4〉

舌癌、脳梗塞後遺症に、誤嚥性肺炎を併発。
〝胃ろう〟さえ想定された状況を懸命な摂食嚥下訓練で脱して在宅復帰へ。

[基礎データ]病名:脳梗塞後遺症、誤嚥性肺炎、舌癌の術後 患者:70代 男性 Eさん

事前経過

 Eさんは、脳梗塞後遺症と舌癌手術の既往が重複し、呂律(ろれつ)が回らず、言葉を正しく明瞭に発音できない構音障害をきたし、併せて、長年の闘病生活からか、四肢の運動機能障害もありました。それでも経口で食事をしていましたが、ある日、気管に食物が入ったことが原因で誤嚥性肺炎を発症。経鼻経管栄養となった段階で当院に転院されてきました。

当院での治療

 リハビリ入院で最も強く回復を望まれたのは、Eさん、妻とも、口から食事をとることでした。入院後早速、飲み込み機能を評価する嚥下造影検査を実施。バリウムの入った液体やとろみ液、ペースト、ゼリーなどを実際に飲み込む様子をレントゲンで診てみると、食べたものが気管に入りそうになる状況が読み取れました。
  本来なら、誤嚥性肺炎の再発防止のため、腹壁に穴を開け、直接胃の中に半消化体の食事を管で注入する「胃ろう」の処置を選択するところでしたが、「胃ろう」は強く拒否されたことを真摯に受け止め、あえて誤嚥の危険が伴うことを承知の上、緊急対応できるサポートのもと、経口で食事をとることとなったのです。

  嚥下造影検査の際には、食べ物を飲み込むのにラクで誤嚥も少ない上半身の傾斜角度も同時に調べます。検査の結果から、体の姿勢を45度に傾け、少しずつ、全粥、ペースト食を介助で食べさせることとしました。

在宅療養へ

 経口摂取のリハビリのほか、四肢など運動機能のリハビリ、高次脳機能障害のリハビリ等も並行しながら、徐々に退院への準備を進めていきました。ご家族にも、退院後の生活を想定した身体の介助方法、食事の介助方法、食事形態の注意点など繰り返し指導。そして、入院の約2ヶ月半後、めでたく退院することとなりました。
  高次脳機能障害のため、判断力低下や注意障害があり、妻の見守り下での生活ではありますが、デイサービスを利用しながら、Eさんは妻と一緒に、住み慣れた自宅での生活を楽しく送られています。

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